私の親戚で、もう十数年も家から出てこれない状態が続いている女性がいます。
幼い頃から発達障害的な気質があって、思春期の頃から学校や社会に馴染めず、ずっと家に引きこもっていたそうです。
十数年前に私の親類と結婚したのはいいのですが、そこから引きこもりが治るどころか、更にひどくなり、今ではゴミ出しのための外出さえできないほどの重度の引きこもりになってしまいました。
今、社会問題となっている「引きこもり主婦」の中でも、かなり重い方だといっていいでしょう。
一日中ゲームをしていて、家事もせず、親戚同士の付き合いも全くありません。
私自身、その女性のことをもう十数年も見たことがありません。
しかし、今、このような「引きこもり主婦」という存在は増えているといいます。
引きこもり主婦とは何か?
じつはこうした「ひきこもり主婦」の存在が問題にされてこなかったことには、理由がある。
まず、最後にひきこもりの数が発表されたのは、2010年の内閣府調査。ここで、ひきこもり者の人数は約70万人、予備軍をふくめると225万人にものぼるという結果が発表されたが、この調査では「自宅で家事・育児をすると回答した者を除く」としていた。
すなわち〈結婚した女性がひきこもると想定されていない〉わけだ。
そもそもこの調査は39歳以下が対象で、いまから5年も前のもの。全体の割合でいえば女性のひきこもりは3割とされているが、現実にひきこもり主婦は〈潜在的にはかなりの数に上るのではないか〉と池上氏は推測している。
大人のひきこもり 本当は「外に出る理由」を探している人たち (講談社現代新書)
「引きこもり主婦」という存在は、統計上からもカウントされていないので、そもそも「引きこもり」だと分類されていない現実があります。
実際には結構な数がいて、困っている人も多いのに、「いないことにされている」ので、問題が表面化しにくく、支援の手が届きにくい人も多いとのことです。
男性の場合は仕事をせずに家に何年もいたら「引きこもり」だと分類されやすいのですが、女性の場合は「家事手伝い」「主婦」というカテゴリーに入ると、なまじ社会的に家にひきこもることが認められている立場であるために、問題が見えにくくなってしまうのです。
しかし、厚生労働省による「引きこもりの定義」は、
引きこもりとは、仕事や学校に行かず自宅に引きこもり、家族以外とほとんど交流しない人や状態を指す。こうした状態が6か月以上続いた場合を引きこもりの定義としている。
とのことです。
この定義を適用するなら、私の親戚の女性は、明らかに「引きこもり」に当てはまっているでしょう。
なにしろ、旦那さん(家族)と接触する以外には全く他人と関わらず、家事も育児も仕事もしていないのですから。
しかし、「主婦」という肩書きがある以上、男性の引きこもりとはまた別の抜け出しにくさがあることは、想像に難しくありません。
引きこもりは叱ったり批判しても治らない
親戚の女性は、幼い頃から厳格な両親に育てられ、いつもダメ出しをされていたそうです。
学校ではいじめを受け、家庭では親から批判される。
これでは社会や他人が信じられなくなって当然だと思います。
普通の人が思春期に育むはずであろう「自分は至らないところもあるけど、まあなんとかやっていけるだろう。これで大丈夫だろう」という基本的な自己肯定感を育めていないわけですから。
私は彼女の過去を聞く度に、同情を覚えるとともに、無理解な周囲への怒りを覚えます。
私の身内のほとんどの人は、彼女に対して「しょうがない嫁」だ、という烙印を押し、無責任に批判しています。
そういった批判が、余計に彼女を追い詰めていることが分からないのでしょうか?
私の父親は「主婦の身分があって思う存分引きこもれるなんて、いい身分だよな」などと、彼女がラクをしているような事さえ口にしますが、勘違いも甚だしいと思います。
いったい、誰が外出もままならず、社会参加もできず、孤立したまま家にずっと居なければならない身分になりたいと思うでしょうか?
働けなくなったり、引きこもったことのない人は、安易な思い込みで「働かずに家にいる=楽なこと」と決めつける傾向がありますが、私自身の経験からいっても、あの状態こそ一番精神力を削られる状態だと思います。
以前の記事でも書きましたが、「表面上に現れている問題」というのは氷山の一角なのです。
「ひきこもり」という現象の問題の表面だけを見ていると、「なんで外に出ないんだ?」「なんで嫁の責任を果たさないんだ?」「若いのに怠けているだけじゃないのか?」という批判に終始してしまいがちですが、見えないところでものすごく大きな負の感情の問題やら、トラウマが積み重なっていることを忘れてはなりません。
実際問題、親戚の女性は発達障害の傾向もあるそうですし、なんらかの障害や、精神疾患が隠れている事も大いにありえます。
問題行動ばかり責めるのではなく、「なぜそういう行動を取らざるを得なかったのか?」という視点がないと、余計に当人を追い詰めるだけです。
「引きこもりを責めても余計悪化させるだけだ」ということは、引きこもりの第一人者である、精神科医の斉藤環氏の「社会的ひきこもり」にも詳しく書かれていますので、興味のある方は手に取って貰えればと思います。
ひきこもりの悪循環を断ち切れるかどうか
しかし、ひきこもりが年単位の長期間に及ぶ場合は、抜け出すことが難しいです。
人間が何かの行動を頑張るときというのは、ご褒美(報酬)があるからこそなのですが、引きこもりの人は将来に対して悲観的になってしまい、

と、モチベーション自体が湧いてこないのです。
そういうときは、「今日は5分だけ外出しよう」というふうに目標を小分けにして、少しずつ達成感(報酬)を感じるようにしていく戦略が効果的です。
あと、これは個人的な経験談なのですが、人によって傷つけられた心は、やはり人との関わりでしか癒えない、ということは強く感じることです。
前述の精神科医、斉藤環氏が 『「社会的うつ病」の治し方』という本の中でも言っていることですが、「人薬(ひとぐすり)」、つまり他人との温かい関わりというのは、どんな抗うつ剤よりも高い効果を持つのだそうです。
「社会的うつ病」の治し方―人間関係をどう見直すか―(新潮選書)[Kindle版]
引きこもりの当事者からしてみれば、最も怖いのが「他人」であり、だからこそ社会から撤退したというのに、そこから回復するには他人との交流が必要不可欠だというのは、なんとも酷な話です。
最近は、ひきこもりのためのスペースや、「ひきこもりアノニマス」などの自助グループもできていますので、同じ問題を抱えた人たちが集まるコミュニティに所属しておくという方法がオススメです。
「ひきこもり主婦」専用のコミュニティなどがあっても面白いのかも知れませんね( ̄∇ ̄)。
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